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開発&コンサルティング

第63回 今こそCIの見直しをするチャンスである

ようやく長いデフレ不況から脱出しつつあるようです。株が上昇しているからだけではありません。景気の先行指標として知られる設備投資計画が増加しているからです。また、それを実際に裏付ける工作機械の受注が増加しているからです。このことから、製造業の業績が回復しつつあり、今まで守りに徹していた企業が攻めに転じていることがわかります。順次、非製造業や中小企業へも波及していくものと思われます。

しかしながら同時に、急速に業績を回復している企業とそうでない企業との差が鮮明になっているようです。急速に業績を回復している企業は、この不況の間に力を蓄えていたのでしょう。このような会社は守りに徹していたのではなく、実は攻めていたのです。

具体的には、コストダウンだけではなく同時に新製品開発も進めていたのです。あるいは、業務改革や新事業開発などを進めていたのです。その一方で、何もしないまま不況が通りすぎていくのをじっと待っていた企業もあります。こういう企業はおそらくジリ貧に陥っていることでしょう。

また、そのような企業が、ここへ来てさあ景気が回復するぞと意気込んでみた所で、力を蓄えた企業との競争には勝てず、このままではいずれこの世から消えていくことになるのでしょう。そのような企業が今から力を蓄えようとしてもすでに遅しです。そのような企業は今こそCIの見直しをするチャンスなのです。

バブルがはじけて数年した頃にCIが流行しました。CIとはコーポレート・アイデンティティの略で、企業の存在意義や存立基盤のことです。わが社は何のためにこの世に存在しているのかを明確にし企業の改革を行うのがCIです。当時、流行りに乗ろうと多くの企業が取り組んだのですが、単に社名変更だけで終わってしまった企業が多かったようです。

最近になって、ソニーがCIの見直しをしたようです。価格競争に陥って業績を悪化させてしまったソニーは創業当時の精神に立ち返り、1から出直しすることを決めたようです。モノづくりの原点に立ち返り、利益を度外視し、また、売れなくても良いという捨て身の覚悟で、技術開発を重視した製品づくりを始めたようです。

さて、コストダウンや新製品開発は日常的に行われる業務であり、業務改革や新事業開発は中期経営計画の達成を目的に戦略的に行われる業務ですが、CIの見直しは企業の存立基盤の見直しですから、わかりやすく言うと別の会社に変わることです。

例えば、典型的な例を挙げれば、現在、カネボーと言えば化粧品メーカーとして知られておりますが、かつては紡績会社だったのです。カネブチ紡績がカネボーに変わったのです。おそらく若い人たちはご存じないと思います。これがCIの見直しです。つまり、単なる事業の再構築ではなく、企業の再構築なのです。

早急にCIの見直しをすべき会社として、現在、私が気になっている会社について書いてみようと思います。他山の石として参考にしてください。その会社は日本たばこ産業(JT)です。巨大企業なので中小企業にとっては参考にならないなどと思わないでください。巨大企業でも倒産することがあるのです。

JT社はCIの見直しと共に社名を変えるべきだと思います。今やタバコが体に悪いということは誰もが知っており、医学的にも証明されています。企業の社会的責任から考えると、タバコを製造販売することは反社会的な行為だと言っても過言ではないのです。

アメリカでは、肺がんになって死んだのはタバコ会社がタバコを販売したからだと言って訴訟を起し、その結果、会社側が負けて数十億の損害賠償金を払わされています。アメリカでは多くのタバコメーカーが訴訟に対して連携して保険をかけていますから、それほど大きな実害はないということです。しかし、日本で同じことが起こったら、独占企業であるJT社はたいへんな打撃を受けることでしょう。

また、最近のニュースでは、「マイルドセブン」のアメリカでの販売が禁じられたということです。それは、マイルドという文字があたかもタバコの害が少ないかのように思わせるので、景品表示法違反だというのが理由だそうです。これと同じことが日本でも起きる可能性があります。

また、タバコを吸っている人が健康のためにタバコを止めようとしても、簡単には止められません。私の友人は数年間、何度もやめようとしましたがなかなか止められず、ついに、タバコを吸うと狭心症による心臓発作を起こすようになって初めて止めることができました。これは動脈硬化とは関係なく、むしろ血管が柔らかい若い人に起きやすいそうです。

心臓に血液を送る冠動脈をニコチンが痙攣(けいれん)収縮させるために起こる症状で、血管が収縮している時間が長ければそのまま心筋梗塞となります。しかも、ニコチンは身体に蓄積しますから寝ている間でも心臓発作を起こすのです。友人はタバコをやめるか人間をやめるかどっちにするか選択を迫られたわけです。タバコを止めた後も2年間ぐらいは吸いたいという気持ちがなくならず、いつもいらいらしている状態でした。

これは、タバコというものが単なる嗜好品ではなく、明らかに麻薬である証拠です。いや、心臓発作を起こすのですから麻薬以上に怖いものです。こういう商品を製造販売することは、「国民は健康で文化的な生活を営む権利を有する」と書かれている憲法25条に違反しているのではないでしょうか。

しかもそのJT社に国が出資しているのです。国はタバコ事業から早急に手を引くべきであり、JT社はタバコ事業をできる限り縮小し、できるだけ早く製造販売を中止すべきです。JT社はすでにタバコ以外の事業を多く手がけているのですから、早急にCIを見直し日本たばこ産業という社名は変えるべきだと思います。

しかし、これはできないでしょう。なぜなら、税金が入らなくなってしまうからです。国は税金と国民の健康を天秤にかけると、税金の方が大事だと考えているからです。タバコはあくまで嗜好品であり、それを国が規制することはできないと言っていますが、それは方便にすぎません。タバコは薬物と同じなのです。


余談ですが、実を言いますと、日本たばこ産業がJTと呼ばれるようになったのには、私も関係しております。昔のことですが、専売公社が日本たばこ産業株式会社に変更されてまもなく、私を含めて12名のコンサルタントが業務改革のお手伝いをいたしました。タバコ関連の業務をできるだけ削減して、できるだけ多くの新規事業に取り組むためです。私の担当部門は本社の製造部門、検査部門、購買部門、それと東北工場でした。

通常、コンサルタントは顧客企業をイニシャルで呼ぶことにしています。例えば、トヨタであればT社、日産であればN社という具合です。これは単に呼びやすいというためだけではありません。コンサルタントは通常、守秘義務のため会議室やホテルの一室で打合せをしますが、緊急の場合は喫茶店のような公共の場でも打合せすることがあります。

その場合に、たとえ企業秘密に係わる内容を人に聞かれても、どの会社のことなのかが分からないようにするのです。また、顧客企業の会議室で打合せをする場合でも、関係者以外の人に話の内容が分からないようにするのです。もちろん、社名だけでなく打合せ内容についても符牒や略称を使って他の人には分からないようにします。

12名のコンサルタントはすでにそれぞれ異なる顧客企業に対して平行してコンサルティングを行っていました。各人が数社づつ行っているので、関与しているすべての企業を合わせると数十社になります。日本たばこ産業をイニシャルで呼ぶとN社になるわけですが、すでに別のN社にコンサルティングしている人がおりました。

このように重なってしまった場合には2文字で表現することになっていました。例えば、トヨタ自動車であればTJ社です。そこで、日本たばこ産業ですからNT社になりますが、NT社もすでにコンサルティングしている別のNT社があったのです。そこで、どのような呼び方にするか検討することになりました。

あるとき、日本たばこ産業の資料を見ていた私は、その資料の欄外に、「JAPAN TABACCO INC」という文字を見つけました。それで、この英語名のイニシャルでJT社と呼んだらどうかと思い、他のコンサルタントに提案したところ、それにしようということになりました。それまでは、日本の企業で英語名のイニシャルを使ったことはありませんでした。

その時からコンサルタントは日本たばこ産業をJT社と呼ぶようになったわけです。しかし、当然ながら、そのころはまだ、当のJT社ではそのような呼び方をする社員は1人もいませんでした。「公社」、あるいは「旧公社」という呼び方をしていたのです。JT社の会議室でコンサルタントとJT社の幹部とで打合せをする場合でも、コンサルタントはJT社と呼び、JT社の幹部は「旧公社」と呼んでいたのです。

そのうち、いつの間にかJT社の幹部もJT社と呼ぶようになりました。なぜ、そのようになったのかは明確にはわかりませんが、業務改革の担当役員に聞いてみたところ、呼びやすいからだろうと言っていました。以前の「公社」という呼び方に比べると「たばこ産業」や「日本たばこ」は呼びにくいわけです。その時、担当役員は、正式にJT社という呼び方に決めたわけではないとも言っていました。

それから数か月して、業務改革活動が終了する頃にはJT社の幹部だけでなく、ほとんどの社員がJT社と呼ぶようになりました。その後、数年してテレビのコマーシャルも日本たばこ産業からJT社という呼び方に変わったのです。それで、正式にそう呼ぶように決めたことがわかりました。

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