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開発&コンサルティング

第46回 経営コンサルタントは学歴も資格もいらない

経営コンサルタントになりたいがどうすればよいか教えて欲しい、といった相談が時々来ます。そこで、新人コンサルタントの指導経験を基に、個人的なことも含めてざっくばらんに思ったとおり書いてみようと思います。

経営コンサルタントというのは学歴も資格もいらない職業です。例えば、有名な大前研一氏の専門は原子物理学で博士号まで持っています。彼は経営学を学んだことはありませんし、経営コンサルタントとして何の資格も持っておりません。ところが、彼は経営コンサルタントとして仕事をしています。しかし、どちらかと言えば、経営評論家でしょう。

また、有名なピーター・ドラッカーも経営コンサルタントというよりは、やはり経営評論家です。ドラッカーを一流の経営学者と呼ぶ日本人が多いですが、それは間違いです。ドラッカーは欧米では三流学者と考えられています。なぜなら、ドラッカーは論文をほとんど書いていないからです。良い論文をたくさん書いた人が一流の学者と呼ばれるのです。

ドラッカーが書いた論文の中で、最も有名なのは、「企業の目的は利潤追求ではなく、顧客の創造である」と書いた論文です。経済学では企業の目的は利潤追従なのですが、それは違うと論文に書いたわけです。それで、一躍有名になったのですが、残念ながらその後に続く論文がないのです。

企業の目的は利潤追求に決まっています。儲けるために会社を経営するのです。ところが、ドラッカーはそうではないと論文に書いたので、では何のために会社を経営するのかを世界中の人が知りたかったのです。ところが、その後、ドラッカーはそのことについて全く論文を書いていないのです。企業の目的は顧客の創造だと言っても、それは「鶏が先か卵が先か」の関係と似ています。顧客を創造してから儲けるのですから。

さて、欧米人は常に本音で意見を言いますが、日本人はめったに本音を言いません。ですから、ドラッカーの論文に心酔してしまったのです。日本の経営者は、「儲けるために会社を経営しています」などと人前では決して言いません。どの経営者も「お客様に喜んでもらうために会社を経営しています」などと言うのです。しかし、本音はもちろん、儲けるためです。

また、ドラッカーは日本人をターゲットにして本を書いているようなので、日本では人気がありますが、欧米ではドラッカーの書いた本はほとんど読まれていないようです。なぜなら、ドラッカーは元GM担当の新聞記者でしたから、欧米の経営者は昔の新聞記事を既に読んでいるからです。また、経営に興味のある人たちはGMだけでなく、アメリカの企業経営について学んでいるからです。なぜなら、当時のGMは世界一の企業だったうえ、当時のアメリカの企業はいろいろな分野で世界を席巻していたからです。

しかし、ほとんどの日本の経営者は当時のGMのこともアメリカの企業のこともあまり知りませんから、ドラッカーは昔書いた記事を基にして日本人向けに書いているようです。元新聞記者でしたから分かりやすく書くのが得意なのです。もちろん、その内容は非常に役に立ちます。なぜなら、GMがどのようにして世界一の企業になったのか、当時のアメリカの企業がなぜ世界を席巻できたのかが良く分かるからです。

さて、本来、経営コンサルタントは経営評論家でもなければ経営学者でもありません。経営コンサルタントは企業の課題解決のために具体的な提案や助言を行う人のことです。よって、経営コンサルタントは顧客企業がどのような課題を解決したのか、そしてどの程度の成果を上げたのかで評価されるのです。

経営コンサルタントは、経営課題解決のための具体的な提案や助言を行う人ですから、経営のことを知らなければいけません。しかし、その場合でも学歴や資格は必要ありません。改善、開発、改革などができれば良いのです。その点は、資格がないと仕事ができない弁護士や税理士などと異なります。

また、中小企業診断士という資格がありますが、この資格も残念ながら経営コンサルタントとしてはほとんど役に立ちません。中小企業診断士は文字どおり、中小企業の診断をする人で治療(改善、開発、改革など)をする人ではありませんし、実際のところ診断だけという依頼はほとんどありません。よって、仕事がありません。

「診断はできるけれども治療はできません」では、何のために診断するのかわかりません。そのうえ、診断するということは、経営者の能力をさらけ出すことにもなりますので、よほどのことがない限り経営者は診断の依頼はしません。したがって、診断の依頼があった時には、かなり業績が悪化しており、すでに「手後れ」の場合が多いのです。

企業の目的はあくまで課題の解決です。ですから、ある課題を解決したいので手伝って欲しいと依頼があった時に、こちらから課題の確認のために調査(診断)させて下さいと依頼するわけです。したがって、その場合の調査(診断)は経営全般にわたるものではなく、あくまで依頼された課題に関する精密検査のような診断になります。つまり、経営コンサルタントは経営全般について診断をすることはほとんどないのです。

ただし、赤字が累積して何とかして欲しいといった経営全般に係る場合は別です。このような場合は経営全般について診断する必要があります。しかし、その場合でも当然、診断だけということはありません。治療しなければ診断する意味がないからです。したがって、治療ができないのなら診断すべきではないのです。これが中小企業診断士が経営コンサルタントになれない理由です。診断はできるけれども治療はできないという医者はいません。要するに、学歴や資格の有無に関係なく、治療(改善、開発、改革など)が出来れば経営コンサルタントになれるのです。

また、経営コンサルタントの仕事は知識の切り売りではありませんから、いくら勉強してもダメです。経営コンサルタントの仕事は課題解決のための知恵を出すことです。必要なのは知識ではなく知恵なのです。ですから、勉強が好きというより、考えることが好きでなくては務まりません。課題解決に必要なのは「考え方」と「進め方」なのです。課題解決のための「考え方」と「進め方」が経営コンサルタントの商品になります。

課題解決のための考え方と進め方を提案し、助言するのがコンサルタントの仕事です。そして、コンサルタントが提案し、助言したことを実施するのは企業の経営者・管理者・従業員です。コンサルタントは、実施の指示命令をすることも、実施することもできません。なぜなら、顧客企業の固有技術については全くわからないからです。例えば、メーカーで製品のコスト削減や製品開発のコンサルティングはできますが、設計・製造・販売はできないのです。

また、多くの企業に共通する課題の解決方法については本に書いてある場合がありますが、個別企業の個別の課題を解決する方法については、どの本にも書いてありませんから、コンサルタントが自分で考えるしかないのです。それができなければコンサルタントの仕事はできません。

また、良く誤解されることですが、コンサルタントが具体的な改善案を作成することはありません。コンサルタントは顧客企業の固有技術に関しては全くわかりませんから改善案は作成できないのです。コンサルタントの仕事は改善・開発・改革の考え方や進め方、改善案・構想案・改革案の作成方法を提案、助言するのです。

では、どうすればそのようなことができるようになるのでしょうか。それは、実務経験しかありません。会社で仕事をしながら実際に改善・開発・改革などができるようになることです。それが、経営コンサルタントになるために必要な修行なのです。そのためには、大企業に勤めるより中小企業でいろいろな仕事を経験した方が良いと思います。

例えば、私は、経営コンサルタントの修行のために、大学を卒業して最初に、中小企業で商品開発の仕事をしました。それはもちろん、商品開発の仕事をしたかったからですが、商品開発の仕事は生産、販売、経理、経営など企業のいろいろな仕事とつながっているからです。

実際に、私は自分で設計した製品を自分で試作し、自分で生産ラインを立ち上げ、そして販売まで行いました。もちろん、大勢の人に手伝ってもらいながらです。そして、開発した製品がいくら儲かっているのかを計算し、経営会議に参加して開発者として意見を述べたりしました。大学を卒業して1年目でこれらの仕事が経験できたのは中小企業だったからだと思います。

また、アルバイトでいろいろな仕事を経験したり、多くの会社に勤めたりする経験が必要です。そうすれば、いろいろな仕事や、いろいろな会社の実態がわかります。しかし、こうしたことは日本では非常に難しいです。アメリカなどと異なり、日本では1つの会社にできるだけ長くいた方が評価されますから。でも、それをあえてやらないと有能な経営コンサルタントにはなれないでしょう。

実際に私がこれまでコンサルティングした業界は、食品、繊維、造船、医薬品、たばこ、建設、自動車、窯業、鉄鋼、家電、音響機器、フイルム、塗料、鉱山、軽金属、包装、金融、水産、農産、サービス、卸売、小売などいろいろですが、どれも親しみを持って取り組むことができました。なぜなら、若い頃にいろいろな仕事を経験をしたからだと思います。

私は工業高校卒業後、働きながら受験勉強をして大学に入学し、2つの大学と大学院も親の仕送りゼロで働きながら勉強して卒業しました。アルバイトした仕事の種類が30以上ありますし、正社員として勤務した会社は7社になります。いろいろな仕事をしながら、常に身近にある問題点について改善・開発の提案をしていました。よって、いろいろな仕事を経験することが経営コンサルタントになるために必要だと思います。

経営コンサルタントになるために最も重要なのは、何よりも、改善や開発が好きなことです。私は子供のころから、遊び道具を改善したり、開発したりして遊んでいましたし、それで小遣い稼ぎもしていました。

経営コンサルタント修行で最も大事なことは、目についた問題については積極的に改善・開発をすることです。そして、改善・開発できたらそれを絶対に自分の手柄にしないことです。経営コンサルタントは黒子ですので、絶対に自分が目立ってはいけないのです。目立ちたがり屋は経営コンサルタントには向いていません。改善・開発できたことが自分の喜びであり、生きがいなのです。

勤務している会社で身の回りの問題点を改善すれば、誰からも一目おかれるようになるか、それとも逆に、うさん臭く思われるようになるか、のどちらかです。うさん臭く思われるのは妬みであったり、改善することを嫌う保守的な人たちがいるからです。多くの人は現状維持が好きで変化を嫌うものです。ベテランほど改善を嫌います。なぜなら、ベテランがこれまで行ってきたことを全面的に否定することになるからです。ベテランにとっては大変なショックなのです。これまで自分が行ってきたことは何だったのか、自分の人生は何だったのかと思うからです。

ベテランとの葛藤が激しくなると、どんなに良い案でもつぶされてしまいます。これを克服できるようにならないと経営コンサルタントにはなれないでしょう。よって、実際に経営コンサルタントになって顧客企業で仕事をする時には、若い人が考えた改善案がベテランにつぶされないような仕組みを予めプログラムの中に仕込んでおきます。こういうことも、実際に改善を嫌う人たちとの葛藤を克服した経験がなければできないでしょう。

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