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開発&コンサルティング

3-2 VEによるコスト削減・原価低減

VE(Value Engineering:価値工学)は、1947年にGE(ジェネラル・エレクトリック社)の資材部門のマネジャーであった、L.D.マイルズ氏によって開発され、当初、VA(Value Analysis:価値分析)と名づけられました。

当初は資材のコスト削減のために資材の価値を分析する技術だったのです。その後、この技術が製品の企画段階や開発・設計段階でこそ有効な技術であることからアメリカ国防総省が導入し、VEと名づけました。

その後、民間企業でも活用されるようになって世界に普及したのです。したがって、VAもVEも同じものです。本質的に変わりはありません。よって、一般的にはVEで統一されておりますし、筆者もVEと呼んでいます。なお、VA/VEと併記される場合もあります。

さて、VEはコスト削減技術として良く知られておりますが、本来はコスト削減技術ではなく価値向上の技術です。このため価値工学と呼ばれているのです。よって、新製品開発にも活用されているわけです。また、業務価値の向上を目的に業務効率化や業務改革などにも活用されています。ちなみに、製品の価値向上に使われるVEはハードVE、業務やサービスの価値向上に使われるVEはソフトVEと呼ばれています。

コスト削減については、VEはIEと同様、あるべき姿と現状との比較をしてコスト削減を行う技術ですが、どちらかといえば、IEは現状分析を主体とした技術であり、VEはあるべき姿を描くことを主体とした技術です。ちなみに、「2-16 機能(役割)別原価計算の勧め」で説明いたしました機能別原価計算は、VEでは機能別コスト分析と呼ばれているものです。これは現状コスト(実際原価)を分析するだけでなく、あるべきコストを描く技術でもあります。

VEは改善・開発・改革の対象(製品、サービス、業務など)の目的と機能(役割)を追求し、明確にすることによって、対象のあるべき姿や本来の姿を描き、現状との差異を発見して改善・開発・改革する技術です。したがって、VEの特徴は目的と機能の追求にあるわけです。よって、目的と機能を追及しないのはVEではありません。

ちなみに、日本バリュー・エンジニアリング協会発行の『VE用語の手引き』に書かれている定義では、「VEとは最低の総コストで、必要な機能を確実に達成するために、組織的に、製品またはサービスの機能の研究を行う方法」となっています。しかし、VEの対象は製品やサービスだけでなく、作業、業務、仕組み(システム)、制度、組織、会社など、いろいろな対象に活用されています。

さて、人間は通常、目的や機能をあまり考えずに、場当たり的に行動する傾向がありますので、無意識にムダなことをするのです。日常生活ではそれも愛嬌ですが、企業活動で目的や機能を考えずに行動すれば多くの損失を生むことになります。

例えば、筆者が顧客企業の社員の方々に、あなたの仕事は何ですか、と質問すると誰もがすぐに答えるのですが、その仕事の目的と機能(役割)は何ですか、と質問するとほとんどの人がすぐには答えられないのです。その仕事は何のために行うのか、その仕事はどのような機能(役割)を果たしているのか、と聞かれると考え込んでしまうのです。よって、多くのムダな仕事を行っている可能性があります。

製品や部品、サービス、作業や業務(デスクワーク)、制度や仕組み(システム)、組織(部、課、係、チーム)、会社などについてその目的と機能(役割)を改めて考えてみてください。おそらく悩んでしまうでしょう。

この製品や部品は何のために存在し、どのような役割を果たしているのだろうか。この仕事は何のために存在し、どのような役割を果たしているのだろうか。この部門は何のために存在し、どのような役割を果たしているのだろうか。我が社はいったい何のために存在し、どのような役割を果たしているのだろうか・・・と、いろいろ考えてみてください。改めて目的と機能(役割)を考えてみれば、きっと何か問題点が見つかるはずです。

VEにおける、「対象の目的と機能(役割)を追求し、明確にする」ということは、「現状から離れてみる」ということですが、人はどうしても現状に捕われてしまい、現状をそういうものだと思い込んでしまうのです。

最近では、「見える化」が改善の方法として良く用いられておりますが、これは現状を見えるようにすることによって、現状実態が良く分かるということです。よって、これは現状分析の1つの方法でありIEの考え方です。VEは通常は見える化できない、あるいは見える化しにくい目的や機能を見える化するのです。つまり、VEは人の頭の中の考えを見える化する技術なのです。

例えば、これまで1度も見たことがない新製品は、いくらその製品を眺めてみても、また、その構造や動きを調べてみても、何をしてくれる製品なのかは良く分かりません。つまり、その製品を詳細に調べても分からないのです。目的と機能を教えてもらって始めて、その製品が何のための製品なのか、何の役に立つのかが分かるのです。

逆に言えば、製品の目的や機能を考えているときには、製品そのものは見えなくなっているはずです。このことを、「物を見て、物を見ず」と言います。つまり、目的や機能というのは、目に見える姿ではなく、人が頭の中で描いた本来の姿であり、あるべき姿なのです。

経済学では、商品やサービスを消費者が利用(使用)することによって得られる満足を効用といい、経営学では便益(ベネフィット)又は利便性と呼んでおります。経済学では、商品やサービスそのものより効用を重視し、経営学では便益を重視しますから、商品やサービス自体はあまり見ない(分析しない)のですが、生産者や消費者はどうしても商品やサービスそのものを見てしまいます。

したがって、生産者は消費者が求める商品やサービスが良く分からなかったり、消費者は生産者が生産・販売した商品やサービスが良く分からなかったりするわけです。筆者はこのことを商品やサービスの生産と消費のミスマッチと呼んでおります。これは企業と消費者とのミスマッチでもあります。

つまり、商品やサービスを提供する企業と商品やサービスを購入する消費者との間でミスマッチが生じているのです。なぜなら、企業は顧客のニーズや欲求を確認しないで、また、商品やサービスの目的と機能を明確にしないで商品開発やサービス開発を行っているからです。

作業や業務でもミスマッチが生じます。仕事を指示した上司と指示された部下との間でミスマッチが生じますし、仕事を依頼した企業と依頼を受けた企業との間でもミスマッチが生じます。なぜなら、仕事を指示したり依頼したりする人は仕事の目的と機能(役割)を明確にしないで指示したり依頼したりするからです。 また、仕事を指示されたり、依頼されたりした人は、その仕事の目的と機能を確認しないで仕事を引き受けてしまうからです。

あなたは上司から仕事を指示されたときに、その仕事の目的と機能を確認しますか?おそらくしないと思います。つまり、何のためにその仕事を行うのか、どのような役割を果たすのかが分からないまま仕事を進めてしまうのです。そのため、上司が意図したこととは違う結果になってしまい、上司に叱られることになるのです。よって、必ず、上司に仕事を指示されたときには、その目的と機能を確認してください。

目的と機能(役割)を確認することによって、このようなミスマッチをなくすことができます。また、これによって、企業は顧客にとって価値の高い商品やサービスを開発・設計し、提供できるのです。目的と機能をとことん追求して顧客が必要とする機能を製品やサービスに備え、また、その機能を充分に果たすようにして顧客価値の向上を図るというのがVEの考え方です。

また、以上の説明から、既存製品のコスト削減、改良などと新製品開発とは紙一重であることがお分かりかと思います。

  1. 既存製品に潜む無用機能、過剰機能、重複機能などのムダな機能を発見してコスト削減を行うこと
  2. 必要機能を果たす方法を見直して、より良い方法、より安い方法などに変更して、コスト削減や改良を行うこと
  3. 機能、性能、品質などを高めて製品の改良を行うこと
  4. 既存製品に不足機能を追加したり、新しい機能を備えたりして新製品を生み出すこと

などは実は同じ活動なのです。なぜなら、いずれも目的と機能を追求して、顧客が必要とする機能を過不足なく備え、最良の方法と最小のコストで実現することだからです。つまり、何れも顧客が求める機能を充分に果たし、より安くより良い方法を探索する活動なのです。

VEによる製品のコスト削減・改良・開発

製品のコスト削減・新製品開発と同様に、サービスの効率化とサービスの開発、業務の効率化と業務改革、組織の効率化と組織改革、経営の効率化と経営改革などはいずれも、紙一重の活動なのです。製品、サービス、業務、組織、経営と対象は異なりますが、目的と機能を追求して必要機能を過不足なく備え、かつ、最良の方法と最小のコストで機能を果たすという意味では同じなのです。

また、以上の説明により、現状コスト(実際原価)の計算もあるべきコスト(原価企画)の計算も同じ考え方・方法でできることが分かると思います。しかも、生産者の立場で行う実際原価や標準原価ではなく、目的別・機能別の原価計算ですから、顧客の立場で行う原価計算なのです。

なお、原価企画については、既に「1-2 コスト削減とは、原価低減とは、原価管理とは」で概略を説明し、「2-21 原価企画」で詳しく説明してあります。原価企画を開発したのはトヨタ自動車ですが、トヨタ自動車が原価に強い理由が分かると思います。トヨタは常に顧客の立場で原価を計算し管理しているからです。

原価(コスト)というのは生産者の立場で計算するのが一般的ですが、顧客にとっては生産者の立場で計算した原価は全く意味のないものです。だからこそ、顧客の立場で原価を計算し、顧客が必要とする原価を計算して明確にするのです。そうすれば、顧客にとって必要のないムダな原価、あるいは不足する原価が発見できるのです。

さて、以上のようにVEは非常に優れた改善・開発・改革技術なのですが、残念ながらあまり活用されておりません。多くの先進的な大企業ではVE推進部などの部門を設けて数十年前から取り組んでおりますが、中堅・中小企業ではほとんど活用されておりません。その理由は、VEの基本的考え方を始め、いろいろな考え方や進め方、あるいは個々の技術が理解しにくいためです。

そこで、長年VEを活用してコンサルティングを行ってきた筆者は、VEを分かりやすくすると共に、VEの短所を排除し、長所を発展させて、より効果的なものにしました。すなわち、改善・開発・改革技術であるVEを改善・開発・改革したのです。そこで、これをVVE(Valid Value Engineering)と名付けました。Valid は有効な、効果的な、の意味です。VVEとVEとの違いなど詳しくは、第4章と第5章をご覧下さい。

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